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豊橋簡易裁判所 昭和38年(ほ)1号 判決 1963年5月02日

被告人 大沢紀一

大一二・二・一一生 建設業

主文

再審被告人を免訴とする。

理由

一、本件公訴事実は

「被告人は昭和三十七年九月二十二日午後三時三十分頃愛知県公安委員会が道路標識によつて警音器を鳴らすべき場所と指定した豊橋市植田町字稲葉十七番地の一地先の見とおしのきかない道路の曲角において第二種原動機付自転車を運転通行するに際し警音器を鳴らさなかつたものである」

というのである。

二、この公訴事実に対し当裁判所はさきに検察官の略式命令請求に基き昭和三十七年十一月三十日被告人を罰金三千円に処する旨の略式命令を発しこの裁判は昭和三十八年一月二十六日確定したが、一方検察官は同一公訴事実について昭和三十七年十二月十一日交通事件即決裁判手続法により当裁判所に対し即決裁判の請求をなし同日同裁判所おいて被告人を罰金二千円に処する旨の即決裁判がなされこの裁判は同手続法第一四条第二項により同年十二月十五日確定し、ここに重復起訴による重復有罪裁判(もつとも裁判官は異るけれども)という事案が発生したものである。

以上の事実は検察官提出の大沢紀一に対する略式命令謄本、同人に対する道路交通法違反即決裁判確定記録一冊、検察官作成の大沢紀一、山本達也の各供述調書により認定するに足る。

三、このように略式命令請求の後同一訴因につき即決裁判請求の公訴が提起せられた場合に受訴裁判所は法律上どのような処置をなすべきであろうか、左の四例が考えられる。

(一)  略式命令が未だ発せられていないか又は略式命令未確定の場合

(イ)  即決裁判手続不相当(前記手続法第六条第一項)として通常公判を開いた上刑事訴訟法第三三八条第三号により公訴棄却の判決

(ロ)  裁判所が即決裁判をしたが被告人より正式裁判の請求があつて公判中に重復起訴が判明したときも亦同じ

(二)  略式命令がすでに発せられ且つ確定している場合

(イ)  即決裁判手続不相当(前記手続法第六条第一項)として通常公判を開いた上刑事訴訟法第三三七条第一号により免訴の判決

(ロ)  裁判所が即決裁判をしたが被告人より正式裁判の請求があつて公判中に重復起訴による確定略式命令あることが判明したときも亦同じ

四、本件においては即決裁判手続において重復起訴の事実について裁判所も検察官もこれを覚知せず即決裁判が言渡され且つ正式裁判の申立なく確定したものである。(若しその事実が覚知されたならば前項(一)によつて即決裁判請求の公訴が棄却される場合に当る)そして更にすでに発せられていた略式命令が送達手続の関係上右即決裁判確定後の昭和三十八年一月二十六日において確定するに至つたものであるところのように重復有罪裁判のいずれもが確定した場合における略式命令に対する再審手続においては起訴日付の前後にかかわらず前項(二)の(ロ)の事例と同じ考えの下に(略式命令に付正式裁判請求があつて公判となつた場合に準じて)後に確定した裁判である略式命令請求の公訴について刑事訴訟法第三三七条第一号により免訴の言渡をするのが相当である。よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 片桐孝之助)

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